E-Lab. 〜小学校英語専科教員のブログ〜

E-Lab. 〜元小学校英語専科教員のブログ〜

2019年度から3年間小学校英語専科教員だった先生のブログ。小学校英語やICT教育の実践記事が中心です。

来年度からの英語教科化は本当に大丈夫なのか⁉

 先日、大学入試における民間英語試験の導入が延期となり、いまだ大きな波紋を呼んでいます。

 そんな中、小学校では来年度から新学習指導要領の実施に伴い、「中学年からの週1時間の外国語活動」「高学年から週2時間の英語(教科)」がスタートします。

 今回、この英語教科化の実施にはとても無理があることを、移行期間(昨年度と今年度)に子どもたちが外国語を学ぶ時数の視点から掘り下げてみようと思います。

新学習指導要領実施スケジュール

 まず、下記の新学習指導要領実施スケジュールを見てください。

f:id:ninnin2222:20191103231706j:plain

 文部科学省では、来年度の小学校における全面実施を前に、昨年度と今年度(H30~31年度)を移行期間として、段階的に英語の授業を中学年で行ったり、高学年でプラスに行ったりすることとしています。

 

移行措置とは?

 こう聞くと、「それなら本実施になっても安心でしょ?」と思うかもしれませんが、全くそうではないのです。それはなぜかというと、移行期間では、移行措置といって3・4年生では15時間だけ、5・6年生では50時間だけやればいいですよとなっているためです。

f:id:ninnin2222:20191103153714j:plain

 もし、この移行措置で示された最低ラインの時数だけをこなしたとしましょう。そうするとどういうことが起こるかというと、現5年生だと本来より75時間不足した状態で、現4年生だと40時間不足した状態で、現3年生だと20時間不足した状態で来年度を迎えることになるのですf:id:ninnin2222:20191103233900j:plain

 

 

 特に教科化となる高学年は教科書を来年度から用いることになります。この教科書は、もちろん、「前年度までの学習を終えた子どもたちに適した内容」となっています。つまり、5年生の教科書は前年度までに70時間英語を勉強してきた子どもたち向けに、6年生の教科書は前年度までに140時間英語を勉強してきた子どもたち向けに作成されています。

 来年度、75時間分の学習内容を学んでない子供たちがこの教科書を使ったら果たしてどうなるでしょう…。それまでの学習とのギャップがかなり大きいものにならないでしょうか。

 

授業時数における地域格差 ~移行措置と先行実施~

 もう一つ、大きな問題があります。

 それは地域格差です。

 先ほど移行期間における授業数を中学年15時間、高学年50時間と書きましたが、これはあくまで最低ラインなのです。どういうことかというと、やれる地域は完全実施並みにやってもよいですよということです。文科省では、これを移行措置に対して先行実施という言い方をしています。

f:id:ninnin2222:20191103153858j:plain

こうした言わば現場による判断に任せたことで、大きな地域格差が生まれています。

文部科学省による移行期間中の時数調査結果が以下の通りです。

 

f:id:ninnin2222:20191103154243j:plain

移行期間中の授業時数調査の結果について:文部科学省

これを見ると、移行措置の学校(15時間(または50時間)実施)と先行実施の学校(35時間(または70時間)実施)とで二分されていることがわかります。移行措置分の授業時数しか消化していない子どもたちにとって、この差は負担となって大きくのしかかるのではないかと懸念しています。

 

原因の一つは時数の受け皿が変わらないこと

 どうしてこのような差が生まれてしまうのでしょうか?

 これには、本来なら外国語で週1時間授業が増えるのであれば、他教科などで授業数を週1時間減らさなければならないはずですが、今回の改訂ではそれがなかったことが原因の一つであるように思います。

 ですので、6時間目を増やしたり、午前中5時間授業を実施したり、モジュール学習を実施したりと、なんとか全体の授業時数を増やすことができた学校は英語の授業を本実施並みに行うことができたのだと考えられます。

 一方でそういったことができない学校は、移行措置のための時間をどう生み出したのでしょうか。文部科学省は特例措置として、移行期間中は総合的な学習の時間を15時間減じて外国語の授業に充てることも可としました。実際に25%の学校が総合的な学習の時間を15時間減じています。今回の移行措置が15時間だけという理由もここからきていると考えられます。

f:id:ninnin2222:20191103184052j:plain

移行期間中の授業時数調査の結果について:文部科学省

 来年度からは総合的な学習の時間の時数を減じることはできないので、この25%の学校ではなんとか時数を生み出すことをしていかなければならなく、

 「それぞれの学校の創意工夫で」「カリキュラムマネジメントで」という耳障りのよい言葉で、各学校ごとに任せてしまった結果、授業時数を生み出せた学校とそうではない学校で差が生まれてしまったのだと僕は考えています。

おわりに

 ここまで、授業時数という視点から来年度からの英語教科化の難しさを述べてきました。個人的には、「標準時数」のような「この内容はこの教科の5時間で教える」というような一律な考え方は非常に苦しく感じます。特に新学習指導要領では、教科横断的な学びも推奨されているので、1つの教科だけでなくいくつかの教科に関わって教えるプロジェクト型の学びなども目指していくところでしょう。もう少し柔軟に「時数」というものを取り扱えるようになるといいなと思います。

 

 また、実際には、これ以外にも「教員の英語指導力の問題」「英語専科を誰がやるか問題」「ALTなどの人材の地域格差や質の問題」など様々な問題が小学校英語には存在しています。民間英語試験のように延期とはいかないとは思いますが、定数改善や専科教員の一層の増員など然るべき措置をお願いしたいなあと思います。